Omiya Alpine Club
山行報告
DATA CONTENTS
日付 2010/05/15〜16
宿泊 レポート参照
天気 レポート参照
メンバー 横田川(L)、村上、chie
歩行時間 【15日】
テレキャビン発駅(8:15)〜テレキャビン終点駅(8:20)〜歩き始め(8:28)
〜大遠見(11:30)〜カクネ里出合(12:50)(13:20)〜天狗尾根取り付きルンゼ(14:20)〜天狗の鼻〜(16:40)→幕営
【16日】
起床(3:15)〜テント発(5:00)〜北峰(8:40)〜南峰(9:00)〜冷池山荘(11:15)(11:50)〜西俣〜大谷原(14:00)〜五竜遠見スキー場(16:00)
アクセス
Report by 【chie】
一般的な天狗尾根ルートの記録を見ると、5月は荒沢の渡渉と藪こぎが大変そう。ということで、リーダーが考えたルートは、遠見尾根からカクネ里に降り、本谷を登高して適当な場所から天狗尾根に取り付き、コルに抜けるルート。遠見スキー場についたのは夜中3時過ぎ。でもどうせテレキャビンは8時半にならないと動かないので朝はゆっくり寝られる。 しかしこの時期、朝は早い。明るさに目覚め、朝ごはんのあと支度をしてテレキャビン駅へ。親切な係員の方が「時間前だけどどうぞ」ということで乗せてくれる。おかげで予定より早く出発できた。ところでこのテレキャビンは16日までの運行とのこと。ぎりぎりセーフ!乗車時、荷物の重さも量られる。10kg以上だと別料金がかかる。村上さんは11kg、リーダーは15kg、わたしは17kgあり、ベテラン二人から何を入れてるんだ、重すぎると、散々小言をいわれる。
 到着駅で登山計画書を出したあとは誰もいないスキー場につぼ足でトレースをつけながら、小遠見、中遠見と進んで行く。このあたりは割りとラクチンな登り。右手には一番好きなスキー場の八方尾根が見える。なんだか懐かしいような不思議な気持ち。いつもはあそこからこちらをみてはうっとりしているのに。そして正面には五竜の堂々たる姿。武田菱はまぁまぁだそうだ。 そして圧巻、左手に鹿島槍の北壁!厳しい岩稜の襞が刻まれている。迫力いっぱいだ。村上さんはこの北壁を見たかったそうだ。  

カクネ里出合 正面は鹿島槍北壁
そしてカクネ里への下降ルートを選定。適当なところから降りたはずだが、これがなかなか厳しい斜度だ。固めの急斜にバックステップと途中には笹の藪こぎ。へとへとになりながら雪渓をバックで下り続けると、突然左足が深いシュルントにはまってしまった。右足が上になった状態で重いザックに引っ張られて頭が下。去年痛めた左足首が90度に捻れた状態で雪に埋まっていて、痛くてたまらないがどうしても態勢が上をむかず、足を抜けない。必死でブッシュまで手を伸ばし、渾身の力をこめて体を引っ張り上げる。やっと体が上になったところでピッケルで足を掘り出して脱出。もう歩けないかと思うくらいしばらくダメージが大きかったがなんとか回復。

天狗尾根への急斜面
 この高低差600mという。大変な目にあったと思いながら2人のところまでたどり着くと、なにやら相談中。実はそもそもの計画では、南峰登頂後、戻ってキレットから下り、またこの尾根へと登り返す案だったのだ。「もしかしてこの登り返しについて話してます?」「そうなんだよ」「お願いですから大谷原のほうへくだりましょう〜」と哀願する。二人もどうやらそちらのほうに傾いているらしいが、諸般の事情もからみ決定には至っていない模様。とりあえず広い誰もいない谷間で一本。 枝沢からは雪崩がドロドロと音をたてて落ちてきている。先ほどよりもぐっと間近に迫る北壁は威圧感をもってのしかかっている。                  
 休憩の後は天狗の鼻を目指してカクネ里を登る。これがだらだら見えて結構登るのである。きつい。まだかまだかと思う頃、やっと目当てのルンゼに到着。3本のルートがあるところ、一番傾斜の緩そうなのが左端という村上さんの判断でルート決定。ところが、見た目よりずっと傾斜がある。登り始めて、10m行っては息を整えるという風。途中でかなりへばってやっと稜線にでた。    
この日快晴で気温も高い。ぼたぼた汗が落ちる暑さで喉が渇くのだが、飲んでも飲んでも口の中が粘ついてちっとも癒されない。そこでまたがぶ飲みする。これでおなかがいっぱいになって食べ物が全然摂れない。てことで、シャリバテにもなってしまう。八ツ峰では1リットルで3日持ったのに、この日は一日で1800mlほどを飲み干していた。飲みすぎ。
 やっと幕を張る頃には5時も近くなっていた。村上さんはいそいそとビールを雪に埋める。暖かいので夕暮れを待とうとしばらく外でおしゃべり。でもなかなか夕闇は迫ってこない。ご飯を食べた後は結局8時過ぎに就寝。夜中、ずいぶん風が強くなって心配しつつ眠る。村上さんはこれは撤退か、と思うほどだったという。

2日目出発 バックがこれから登る天狗尾根上部
 翌朝、目覚めてみると高曇り?という感じ。やはり大谷原に降りることになったので、ゆっくり出発でよいということ。朝ごはんを食べ、出発は5時。北峰への登りは、急な雪壁や岩稜がたちはだかっているが、岩稜は3級程度とガイド本。そうかなぁ、急にみえるけど・・・・。
と思いつつ、歩を進める。やはりバテが回復していない。というのも、昨日はかなりつま先に立ちこむ登下降が多く、ふくらはぎがパンパンに張ってしまっていた。そして本日もダブルアックスでの硬い雪壁登攀がつづく。

天狗尾根登攀中 左はカクネ里

天狗尾根岩稜 村上さんリード中

北峰頂上

南峰直下
 ベテラン二人は荷物も軽く足取りも軽い。真ん中の私はプレッシャー。岩稜の取り付きにきて、リードは村上さん。攀じ終えると、あとは頂上直下の雪稜・雪壁を残すのみ。まだピークは遥かに見える。この時点で8時。しかし8:40には北峰のピークに立つ。
 そして目に飛び込んできた剱。2週間前に下った剱沢や池の谷乗越が見える。源次郎尾根に重なって八ツ峰は定かではないが、ギザギザの剱は本当にかっこいい。
 すぐに南峰へと歩を進める。最後の登りがちょっとあったが、これも思いのほかあっという間にピーク。握手とハグで喜びを分かち合う。いつのまにやら真っ青に晴れ上がった空。周り中峰だらけ。山はいいなぁとあらためてしみじみ思う。

祝完登!
 下山路は冷池にむかって緩やかな稜線をたどる。途中、雪原に岩ヒバリがたくさん群れていた。なにやら熱心についばんでいる。何をたべているのだろう?美しく囀りながら、近づいても逃げない。とてもかわいくて和んでしまう。
 だいぶ歩いて冷池山荘。お姉さんが顔をのぞかせて、「お茶飲んでいって下さい」と外まで運んできてくれた。感謝。あたたかい緑茶はことのほかおいしくて生き返る。カリントまでついていた。しばし寛いでお礼をいう。ここのベンチに座って、晴れた空のもと白銀の峰を見渡し、清々しい香りを放つ針葉樹に囲まれていると、天国にいるほど幸せを感じる。この景色を味わうためにまた来ようと思う。こんなにいいところなのに、山行中会ったのは遠見尾根の単独おじさんのみ。他には人っ子ひとりいず、トレースもない。静寂の鹿島槍を独り占めだった。
 あとは赤岩尾根の途中からトラバースして西俣をシリセードで一気に下る。これはリーダーが楽しみにしていたダントツお勧めのシリセードコースなのだが、私には急すぎて怖くて、とても一気には滑れなかった。制動のピッケルには力がこもるし、スピードがつくとすぐ止めたくなるしで、時間がかかってしまった。 下のほうでは石がごろごろしている中をかっ飛ばしたので、村上さんのレインウェアはおしりがべろべろに破けてしまった。おしりは麻痺するほど痛くて冷たくなった。それでも時間短縮はありがたい。
 あとは大谷原まで林道をてくてく。途中フキノトウやらコゴミやらを採取しながら二人は降りる。かなり歩いてやっと人里にたどり着き、釣堀で電話を借りてタクシーを呼ぶ。
ショートカットの道がたまたま通行止めで大回りをしたため、かなりタクシー代もかさんでしまったが、車にたどりついたのが4時。歩いていたらとてもそんな時間には戻れなかったに違いない。 筋肉痛は2日たってもいまだ癒えず。お疲れ様でした。

【参考】
とある学術論文によると、この後立山連峰では、日本海からの湿った雪雲から落ちる大量の雪は西側では強風にあおられ東側にたまる。その氷雪が溶け動く作用により、この山域は東側は急峻に切れ落ちた険しい山容となるとのこと。逆に西側はゆるやかな様相を呈する。まったくそのとおりで納得!