初の穂高エリア山スキーは苦行・修行系!?

【日程】2019年4月28日(日)~29日(月)テント泊ベースキャンプ方式山スキー
【場所】28日:西穂高沢、29日:前穂高岳
【メンバー】Y(単独)


前穂ダイレクトルンゼ途中から見た明神岳の鋭鋒

 今年のGWは当初職場の引越の関係で山行を諦めていたのですが、引越のない勤務地へ異動となり、晴れて10連休を確保できることになりました。そこで連休前半で北アルプスへ山スキーに、連休後半で家族旅行で東北へ(これも結局3日間とも山スキーをすることになりましたが)行くことに。おかげさまで充実した連休を満喫させていただきました。こちらは連休前半の北アルプス山スキーの記録です。

①西穂高沢
◆行程
5:15沢渡→(シャトルバス)→5:45上高地→6:00~7:10小梨平(テント設営)→7:50シール登行開始→9:05西穂高沢出合→14:00~14:20最高到達地点(2730m)→
15:10 岳沢登山道合流(2010m)→15:25滑降終了点(1760m)→16:25小梨平

◆レポート
 連休初日の27日、季節外れの寒波が到来し、北アルプス全域でかなりの降雪があったと模様。この時期の新雪は雪崩にストップスノー、モナカの元凶なので北アの中でも比較的降雪が少ないと思われた穂高エリアに山スキーとしては初めて行ってみることにしました。
 28日5:15沢渡発のシャトルバスで上高地入りすると、何と上高地も雪化粧。気温も氷点下を下回っており、冬のような光景でした。まずは小梨平で受付を済ませ、テント設営。余計な荷物を置いてスキーをザックに縛り付け、シートラで出発です。こんな寒い朝にも関わらず、10連休とあって河童橋周辺は写真を撮る人を中心に多くの観光客が訪れていました。梓川北側の明神へ至る遊歩道は積雪のため通行止め扱いになっていました。

河童橋から新雪の穂高連峰

 登山道に入ってまもなくすると本格的な雪道になりますが、樹林が密なためシール登行は難しく、しばらくシートラのまま登っていきます。岳沢登山道の看板8番の「前明神沢」を越えて少し進んだところからシール登行に切り換えて沢状のところに入って登っていったのですが、これは失敗でした。藪が幾度も出てきて沢が開けてくるまでかなりの時間と労力を浪費する結果に。岳沢は登山道が沢に出るまではシートラでそのまま進んだ方がはるかに効率的です。

西穂高沢下部の様子
小デブリの上に昨日の新雪が被っています。

 西穂高沢出合からはひたすら沢を詰めていくだけです。地形的には登るにつれて急傾斜となる、稜線上のコルまでほぼ一直線に伸びたシンプルな地形の沢です。気になる積雪ですが、前夜までの雪はすでに落ちるべきものは落ちてしまっている様子で、沢上に柔らかいデブリとなって堆積しています。10~20㎝程度新雪が乗っている状態で、既に重くなりかけて安定してきています。雪崩の危険性は低いですが、滑降時は重雪のストップスノーと化す恐れ大です。(結果として重たいながらもそれなりに滑れました。デブリよりましでした。)

西穂高沢からのぞむ岳沢全景
デブリは天狗沢、コブ沢から発生しています。

 高度を上げていくと岳沢の全景が見渡せます。岳沢はものすごいデブリに埋め尽くされていて、その大半は天狗沢から供給されています。畳岩から落ちてきたものと推測されます。他にコブ沢と扇沢がデブリで埋め尽くされており、これらの沢は全く滑降不可の状況でした。西穂の稜線からは西穂高沢以外にも西穂高前沢や間ノ沢などがありますが、デブリのない面ツルの沢は皆無でした。いずれも急峻な地形ゆえ、降った雪はすぐさま落ちるようで、このエリアは多少のデブリは覚悟しなければならないようです。

登行途中からの前穂・明神
この辺りの斜度は30度強くらいでしょうか。
上部に来ると小デブリが増えてきます。

 西穂高沢に話を戻しますが、南東に面してストレートに伸びるこの沢は朝から日射をモロに受け、遮るものは何一つありません。また西穂稜線が高くそびえ、西からの風を遮ってしまうため、風もほとんどなく、かなり暑い思いをして登行する羽目になりました。久々の本格的な山スキー山行で、この暑さの中の登行はかなり堪えました。水は1100ml持参したのですが不足気味で、テルモスのお湯で雪を溶かして飲むなどして節約しました。そんなこともありタイムリミットとしていた14時には稜線までも辿り着くことが出来ず、約2730m地点で終了。ちょうど西穂山頂からのダイレクトルンゼの合流点でした。そのあたりの傾斜は40度弱くらいありましたが、新雪のおかげですべてシールで登って来れました。やはり当日朝に入山して、テント設営後7時過ぎに登行開始では、今の自分の体力では山頂到達はおろか、稜線上の鞍部までも到着は無理でした。暑さを避ける意味でも、早朝に登行して昼前には滑降開始するくらいのスケジュールが望ましいです。

西穂高沢上部
この辺りになると40度くらいの傾斜になります。

 いよいよ滑降ですが、予想通り前日の降雪が見事に腐って全面重たい雪になっていました。また前述の通り谷の大半は前日の雪のデブリで埋まっていました。デブリは前日の雪のものだけで量も少なく、固まってはいなかったので、滑れなくはないですが、快適からは程遠いものでした。2300m付近からはデブリのない斜面も選べましたが、かなり重たい雪で、上部と比べればマシという程度です。

滑り出しは小デブリに埋め尽くされています。
中間部から下まで来るとデブリのないゾーンが所々現れます。

 登りの教訓から早めに登山道に合流しようと2030m付近で岳沢を横断しましたが、本流のデブリが酷く、これまた相当な苦行でした。1950mあたりで上手く横断箇所を探した方が良さそうです。岳沢登山道沿いは1760m付近まで滑降できます。2000m前後は本流がデブリで滑降できないため、藪っぽい山肌を滑らざるを得ずやや難儀します。
 1760m地点から潔くシートラで小梨平へと帰還です。出発時は軽く感じたシートラ状態での荷が、気のせいかやたらと重く感じられました。下山はアイゼンを着けずに下りましたが、氷結気味の箇所など、登山靴と比べて兼用靴は滑りやすいので用心して歩きました。こうして初の穂高エリアの山スキーはほぼ全行程苦行という結果になりました。

西穂高沢GPS軌跡

②前穂高岳
◆行程
4:20小梨平→5:40シール登行開始(1760m)→7:00岳沢小屋→9:25ダイレクトルンゼ分岐→11:00~11:10前穂高岳山頂→12:00岳沢小屋付近→12:40~12:50滑降終了点(1630m)→13:30~15:45小梨平(休憩・撤収)→16:00~16:20上高地→16:50沢渡

◆レポート
 今日こそは登頂すべく、前日の反省から4:20に小梨平を出ました。すでに明るくヘッデンは不要です。これまた前日の反省で1,760m付近まで登山道をシートラ、そこから奥明神沢下部までシール登行です。

ここからシール登行です。
朝日が稜線を照らし始めました。

 奥明神沢は岳沢小屋付近が出合で、広い出合からゴルジュ状に谷が狭まり、また上部で前穂ダイレクトルンゼなどの分岐がいくつかあって開けていく地形です。西面でかつ南側が岩壁のため朝日が当たらず、昨日と違って寒いくらいで登りは楽ですが、腐れ雪が固まった状態の雪が緩まずにシールの効きが悪く、2480m付近でシートラに移行します。ここから山頂までは重く、長い登り。標高差では600mそこそこを3時間20分かけて登りました。それなりに傾斜のある斜面が延々と続きますが、奥明神沢から前穂ダイレクトルンゼはこの時期のメインルートであるため、しっかりステップがついたトレースが山頂まで続いています。難所と言うほどのところはありませんが、雪の状態によってはどこでも微妙な登行になります。標高差1600m、うちシートラが約半分になるため、体力的にはなかなかしんどかったです。それでも一歩ずつ歩みを進めて11時にどうにか登頂です。

奥明神沢を登る登山者
残雪期は奥明神沢は前穂へのメインルートの為、多くの登山者が行き交います。バックカントリーはごく少数です。
前穂ダイレクトルンゼ分岐
ここでダイレクトルンゼは左、
奥明神のコルは右へと分岐します。

 天候は朝イチはピーカンだったのが、徐々に雲が出てきて、前穂の山頂に着いた時にはガスがかかり始めて雪もちらついてきました。ペットボトルの水も凍ったので裕に氷点下でした。山頂部は大量の雪で大部分が埋まり、山頂標識も隠れてしまっています。既にガスが出始めていて、奥穂の姿も確認できず、かろうじて見えた前穂北尾根がなければ、本当にこれが山頂なのか疑わしいくらいでした。

紀美子平分岐の標識です。山頂まであとわずか。
前穂山頂
右側が北尾根2峰3峰です。

 苦労した登りを終えて、ようやくお楽しみの滑降のハズでしたが、これまた土曜日の降雪のおかげで、前日の西穂高沢以上の過酷な滑降となりました。滑り出しはアイスバーン。しかもオクマタ側は絶壁となっており滑落の危険があるため、失敗が許されない状況なだけに慎重に行かざるを得ません。アイスバーンの難所を過ぎると、今度は弱層の上に重めの積雪。重い雪なので雪崩れる感じはありませんでしたが、傾斜がきついところはスラフとなってずれ落ち、足元ごと持っていかれることもあります。ここも慎重に下らざるを得ません。そして下るにつれ雪の重さが増し、どんどん滑り難くなります。ダイレクトルンゼ後半になってくると明らかなモナカへとなり、奥明神沢上部はハードモナカ&登山者が多い故の踏み荒らされた雪面で全く滑りにならず。ここではほぼターンは断念。横滑りで高度を落とせれば儲けものといった状況でした。

ダイレクトルンゼ上部
弱層の上に重たい新雪。雪崩れませんが、足元から崩れ、滑り難いです。
奥明神沢上部
ハードモナカです。もはやターン不可能。横滑りで高度を落とせればラッキーです。

 2350m付近からようやく左側に荒らされていない重雪の斜面が広がるようになり、岳沢小屋をパスして左側斜面から2100m付近で登山道に出ました。ここまでが今日一の快適な斜面。1980m付近まではデブリを避けるため、左側の斜面を藪を避けるように滑るしかなく難儀しますが、そこからは登山道脇を快適に1760mまで下ることが出来ます。
 昨日の教訓で分かっていたはずなのですが、そのあと登山道に出ないでついそのまま雪渓を下り続けたら見事なほどに藪の餌食に。特に最後に登山道に出る直前は、スキーを履いたままでは藪で抜けられず、スキーを脱げばズボズボと股まで潜って歩くのもままならず、登山道までのほんの数十メートルがものすごくシンドイ思いをしました。
 小梨平帰還後に遅めの昼ご飯を食べるなどちょっと落ち着いてから撤収。上高地に16時でしたが、さすがに10連休だけあってこの時間でもバスが長蛇の列でビックリ。ただひっきりなしに次のバスが来たので、あまり待ち時間なく乗車でき、沢渡まで戻れました。

前穂高岳GPS軌跡

 そんなことで、初めての穂高エリアの山スキーは両日とも修行系のスキーになりましたが、とりあえず前穂の登頂を果たすことが出来、充実感を得て終えることが出来ました。でも次はザラメの時に来てみたいです。

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